デザイナーが語るクリエイションとビジネス ブランド成功の秘けつとは

1999年、ニット3型からスタートした「サカイ」は2014年5月期決算で、ついに小売り価格での売上高が100億円を超えた。6月29日発売の「ジャパン」では「サカイ」が、いかにしてビジネスとクリエイションのバランスを取りながら、100億円ブランドへと成長したかをひもといた。ここでは、特集用に6月4日に行った阿部千登勢のロングインタビューを紹介する。

最新の2015-16年秋冬コレクションは、“ニュープロポーション”を追求し、これまで以上に強さを感じるものだった。“日常の上に成り立つデザイン”というコンセプトの下、自身が日常に着る服が大前提にあったが、コンセプトは変わっていない?

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(2015-16秋冬のコレクションも)私のリアリティーです。17年前に始めたころと今では生活環境も年齢も変わっています。もちろん、今のコレクションを着て街を歩くと振り返られるけれど、それが私のリアリティー。ショーのための服作りではないところは変わっていません。

クリエイションの転機の一つは08年春夏シーズン、ルックブックを作るようになったタイミングで、シーズンアイテム特化型からスタイル提案型へと変化したと思うが、自身のクリエイションに変化があったと感じるか?

ルックブックを作るまでは、単品の積み重ねであったことは確かです。「サカイ」のお店もなかったので、セレクトショップで最後の1枚になったときでも「サカイ」と分かる強い商品を作りたいと強く思っていた。今もそれは変わりませんが、確かに当時は、「女性像というよりは良い商品を」という作り方だった。ルックブックの制作をきっかけにモデル選びやヘアメイクなども含め、女性像を提案するようになったと思います。

昔から変わらない。みんなが知っているスタンダードなもの、クラシックなものが好きで、それをいかに他にはないものにデザインするか。それだけですね。まず好きなものを作って、そこに足りないものを足していく。縦長のシルエットといったイメージはありますが。デザイン画はアイテムの絵を小さくふわっと描きます。パタンナーは絵型通りに作ると私に「絵型通りじゃん」と怒られる(笑)。パタンナーの創意を引き出したいので。アイテムありきでスタイリングを考えながら作ります。

大好きでこの仕事をしていますが、仕事としてやはり、考えますよね(笑)。映画も見るし本も読む。旅行もするし、街も歩くし、古着屋にも行く。いろんなところでアッと思うし、生活全てがコレクションにつながっています。どれがどうと限定するのは難しい。頭の中に積み重ねてきたものが出てくる。だから、住む街が変われば作るものが変わるんじゃないかな、というぐらい自然にデザインしています。

東京ベースであること、日本人であることを意識することはあるか?

モノ作りに関しては、今は垣根がなくなっている。空気感、スタッフや工場が変わるという意味では、作るものが変わるかもしれないけど、情報が早いから世界が狭くなったきた。東京にいながらにして、言葉が通じなくても全世界の人たちに向けて発信できたり、コミュニケートできることが面白いと感じます。

海外の人との仕事を通じて日本人であることを感じることは?

納期の早さとクオリティーの良さは日本人だからと取引先に言われたことがあります。真面目でキッチリしていると。「私たち30人でやっている小さな日本のブランドだから納期が遅れます」じゃ通用しない。その段階でアウトです。また、これが日本人ぽいかは分からないけど、私たちはサンプルを作り、原価計算して上代を出した後に、「この方が良くない?」とデザインは大きく変えずに、良くなる方法を全部検証しています。上代は決まっているのでコストアップすると利益率は減る。でも、お客さまの元に届いたときに「サカイ」の商品いいねと思われたいし、お客さまが「サカイ」に戻ってくることにつながると思うので、目先の利益には走らない。そういうことの積み重ねで今があります。

海外に出て気付いたことは?

もともと東京のマーケット用に、海外のマーケット用にという視点で洋服を作っていませんが、日本のマーケットとそれ以外が明らかに違うと感じました。日本人はみんな電車に乗るし、ブランドものを買う。でも海外は、きっちり分かれている。11年前に海外で、すごいショーを見たときに「これ誰が着るんだろう?」と思うことがあった。でもそこにはマーケットがあるんですよ。私が知らなかっただけだと知った。

プレ・コレクションを始めて「サカイ ラック(以下、ラック)」を休止し「サカイ」に一本化する理由は?

そもそも「ラック」はディフュージョンラインでもなく、安いラインというわけではない。私は「サカイ」も「ラック」も両方着るし、同じクローゼットの中にある。ホワイトハウスに招かれるような華やかな世界もあるし、一方で娘と一緒に買い物に行くし、海にも行く。一人の女性のクローゼットを提案しているので、「サカイ」と「ラック」を分ける必要がないと思いました。見え方は変わるかもしれないけれど、作っている私自身は変わらないし、内容は何も変わりません。

「サカイ」は納期が遅いという問題があった。(「ラック」のコレクションに厚みが出て)これだったらプレの時期に提案できるかなと思ったタイミングだった。それがとても良かった。「ラック」を「サカイ」と一緒に見せていた時期は、みんな「サカイ」で予算を使うから「ラック」では「Tシャツだけ買おうかな」という程度だった。分けたことによって予算が変わりました。

近年、プレの需要が高まり、日本国内ではプレのバジェットがメーンコレクションよりも高くなっているが、海外でも同じ傾向があるか?

海外の店は全く違います。「サカイ」をしっかり買ってくれる。「ラック」がここ2、3年強くなってきたので、「ラック」の売り上げも伸びています。「ラック」を「サカイ」と同時に見せていたころは「ラック」の売り上げはほぼ日本が占めていました。

私がオーナーでありデザイナーであること。最近は、それをインタビューで伝えているので、少しずつ知ってもらえるようになってきたけど、つい最近までは私がオーナーでインディペンデントであることは知られていなかった。「投資家がいる大きな会社だと思っていた」と言われることが多かった。海外ではパリコレの中の一つとして見ていただいています。また、デザインのオリジナリティーとビジネスのユニークさも強みだと思います。

100億円ブランドに成長したが、どういう形で目標を立ててきた?

いわゆる普通のブランドと同じやり方をしていたらかなわないでしょ?と17年前から考えていました。私はそのとき、子育て中で、お金もなかった。世の中にはたくさんブランドがあり、お金や人、時間を使えるブランドと比べても仕方がない。何が「サカイ」なの?と考えた結果、「他の人がやらない方法を考えよう」が出発点になった。私は常に「違う景色が見たい」と思っているし周りにもそう伝えています。その先には何があるんだろうと。ブランドをこうしたいと思いながら進んできました。例えば島田(昌彦グローバル・セールス・ディレクター)と初めてパリで展示会を開いたとき、「みんなこれを見たら絶対『いい』って言ってくれるはずなのに。どうしてジャーナリストは見に来てくれないんだろう」と話していました。少しプレス活動をすることで多くの人が見つけてくれて、また違う景色が見えるようになって。日々それの繰り返しですよね。ゴールがどこにあるかはやってみないと分からないです。

「ラック」を休止して「サカイ」に一本化したが、この他に違う景色を見るために今考えていることは?

普通だったら靴、バッグ、香水、いろいろありますよね?でも、次の景色を見たいがために始めるのではないと思う。これから作るかもしれない。それは、あくまでもビジネスモデルにのっとるわけではないです。その中で「サカイ」としてのオリジナリティーを模索したい。私のやり方をどなたかが見たときに、「あー、こういうやり方があったんだ」と思われたいです。3型しかなくてアイテムもニットだけ。「これでもブランドが成立するんだ」って思われたかったし、今でも思っています。一方で、ファッションビジネスを続けるためにはショーをやらなくちゃいけないと考えたのも確かです。既存のやり方を批判してショーではない方法を模索した時期が3、4年くらいあった。でも「いまいち違うなあ、何でだろう?」と考えた。結果、ショーは10分で伝えられる手っ取り早い方法だと気付きました。

海外進出やショーを始めたときなど、物事を動かすのはどんなタイミング?

「これやるよ」とみんなに旗を振るときは、自分の中で開ける、先が見える感覚があります。逆にうまくいくと感じないとやりません。すごく慎重派だから。私たちみたいに小さな存在は、しっかりしていないとすぐ足元から崩れていく。何かを始めるときは、常に足元を見て、自分たちで立っていられるかを考えます。どこかとコラボレーションするときもそう。相手が大きいから。「たかが100億円」と思っているブランドと比べられるマーケットにいるので、やっぱり「サカイ」らしさがないと、と考えています。

特に海外では、そのユニークな方法が面白がられ、最近では、米国版の週刊化リニューアル時の特大号(4月29日発売号)で“6”と大きくフィーチャーされた。その時の阿部さんの見出しが“The Enigma (意訳すると不思議ちゃん)”だった。

私の価値感を理解するよりも、どこかのグループに買収されることを否定することの方が、難しいのかなと感じました。だから“不思議ちゃん”というキャッチフレーズだったのでは。特に海外では、長い年月をかけて今があることがあまり知られていません。新人と思われるところも面白いですよね。

「もうだめかも」と思ったことは?

お金に関しては銀行から借りたことはあるし、今も短期間で借りています。サイクル的に工場へ先にお金を払わなければいけないので、売り上げが上がれば上がるほど出て行くお金も大きくなる。黒字倒産じゃないですが、借りないと回らないことがあります。ただ、17年間売り上げが下がったことは一度もない。リーマンショックや災害などいろいろあったけど、ビジネスで困ったことはありません。お店(取引先)と時間をかけて信頼関係を築いてきて良かったと思います。というかまだまだです。最近のテーマは「この先どこに行こうか」。島田も源馬(大輔クリエイティブ・アドバイザー)も(PRを担当する)加藤(万貴)も事あるたびに「(ビジネス・クリエイション・プレスを)どうすんの?どうするつもり?」と私が投げかけるので、嫌がっていると思います(笑)。私からかかってくる電話の中で「この電話はやばい」と分かるみたいで(笑)。もちろん、私も考えています。ここからどうしていこうと考えるのが楽しい。今模索中だし、これからもずっと模索し続けるのだと思います。

“一流”というよりは“本物”の方が合っていたのかなと思います。何かと比べるのではなく、「サカイ」自体が本物になるというか。私が年を取っていなくなっても、「サカイ」をなくならない“本物”にしたい。

ブランドを継承することも考えている?

そうですね。ただ、今があるのは私が全てのことに目を通して、細かくやってきたからでもある。だから継承していくのはとても難しいことですよね。でも任せられないからこそ今があることも分かってください(笑)。

昔のインタビューでは給料も自分で振り込みたいと話していたが。

さすがに今は経理に任せています。ただ、ネガティブな話ほど知っていたい。私の知らない間に足元が崩れているのは嫌だから。だから、遠くを見ながらも常に足元を見ておかなきゃいけない。両方大事ですよね。

モンクレール Tシャツ コピーやナイキラボとの取り組みは、“共通言語”がありながらも、「サカイ」のオリジナリティーを生かしたデザインだった。歴史やスタイルがあるラグジュアリー・ブランドのクリエイティブ・ディレクターには興味があるか?その場合、グループの傘下に入るなどの可能性があるが、それは別と考えると。

なくはない。興味はあります。私は何か事をするときに相手に喜んでほしい。コラボレーションするときも平等でありたい、どちらかが強くて、どちらかが嫌な思いをするのは良くないと思っています。性格なんですよね。だから、この人は何を望んでいるのかなあと相手をよく見ます。とはいえ全部応えるわけではなく、分かった上でわざとやらないときもある。違っていると思えばやりません。共感できれば半分ずつやりたい。仕事に限らず家族や友達も全てにいえます。私はいい人でもないし優しくもない。厳しい人間です。ただ、何でも知りたいし、知った上でどうするかを決めたい。知らなくてAかBを決めるのではなくて、両方知った上でどちらかを選んでいたい。

「サカイ」をキーワードで表現すると?

バランスという言葉が大好き。人生においてバランスが大事だと思っています。会社も仕事もバランスって大事だなあと思います。

インターナショナルなブランドになるための10カ条を挙げるとしたら?

まだまだこれから。だから、私はまだ答えられないです。100歳くらいで引退する時に答えます。私、長生きしそうってみんなに言われています(笑)。ショーを始めて「サカイ」を知ってもらえるようになり、やっと仕事がやりやすくなり、海外のビジネスがうまく行きだした。私たちは小さな存在だから、何か違う捉え方をされてしまうと弱いんです。特に誰かと仕事をするときに感じます。ほんとうに全員の腕だけでやってきた。お金はすごく大切だけど、お金が一番じゃない。ショーなどはお金がとてもかかります。ですが、一番はブランドが格好良くあるかどうか。過去17年間お金で動いたことは一度もありません。ただ、お金も大事です。“売れなくても格好良ければいい”は違う。“売れて格好いいのがいい”けど、それも難しい。それもバランスなんですよ。安心感と裏切り。ショーをするにしても安心感は必要だけど、100%安心感じゃなくてあっと驚かせたい。それもバランスですよね。

2019年夏リアルトレンド マストの肌見せ、何着る?

2019年夏シーズンは、春から続く肌見せアイテムがさらに豊富にラインアップする。トップスは、肩見せのオフショルダーやワンショルダー、鎖骨からデコルテまでセクシー&ヘルシーに見せるVネック、ドキッとする背中開きのシャツやワンピース、ボトムスは大胆なスリットのデニムやポイントスリットのスカートなどがそろう。注目の4タイプの肌見せアイテムを紹介する。

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今年の春夏トップスで新鮮なのは、やっぱり肩見せデザイン。すでに店頭に並ぶ春物商品も両肩を出すオフショルダータイプが多く見られる。夏物は、リボンストラップのついたワンショルダーブラウスやシャツとノースリーブがドッキングしたタイプのトップスなど、デザインがさらにバージョンアップしている。

ボトルネックなどの“首つまり”トップスのブームが定着し、夏は女性らしさをアップさせるVネックが続々登場する。華奢なストラップのキャミソールやエレガントなレースワンピースなど、デコルテがきれいに見えるラインがポイント。ネックレスやチョーカーを合わせて、鎖骨やデコルテ見せをさらに際立たせてみるのも◎。

170401-summertrend-002デコルテ見せに抵抗あれば、背中が開いたトップスやワンピースがおススメ。肌見せ部分に、リボンや大振りのリングをポイントに置いて、より今シーズンらしい装いに。またイエローやオレンジ、ピンクといったブライトカラーであれば、どんな肌色にも合いそうだ。30代女性にも、肩見せの次にチャレンジしてみてほしい。

ボトムスも肌見せしたい!パンツはセンターやサイドに、ふくらはぎが大胆に見えるくらい深いスリットのデザインデニムが多数登場。シンプルなワイドやフレアに加えることで、より動きが出せるスタイルにアップデート。スカートも少しスリットを入れることで、ヘルシーな印象になる。

「ルイ・ヴィトン」が2020年プレ・スプリングをNYで発表 ショー会場はJFK空港内の新名所

「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」は8日、2020年プレ・スプリング・コレクションのショーをNYのジョン・F・ケネディ(JFK)空港内にまもなくオープンするTWAフライトセンターで発表した。

同センターは1962年に当時の米国大手航空会社のターミナルとして建てられ、01年まで使用されていた。フィンランドの建築家エーロ・サーリネン(Eero Saarinen)が手掛けた流線形のデザインは60年代の名建築として知られる。白い大きな鳥が羽を広げたようであり、開放的で近未来的。ジェット機時代到来に沸いた当時の熱気をほうふうとさせる。15日にオープンし、今後はホテルとして使用される。

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この日のために会場を飾った緑の演出も異国への旅情を誘う。アーティスティック・ディレクターのニコラ・ジェスキエール(Nicolas Ghesquiere)は「私は幸運にも90 年代年代の終わりに TWA フライトセンターに飛行機で到着したことがあり、決して忘れられない思い出だ」とコメントしており、若いジェスキエールが夢を胸にNYに降り立った姿が目に浮かぶ。「この場所は、20 年間も忘れ去られていたが、現代に蘇った。まさに復活した聖域のようであり、ホテルという形でアメリカのヘリテージの一部が新しい魅力を発揮する姿を再発見するのは喜びだ」とも話す。

「ルイ・ヴィトン」のプレ・スプリング・コレクションはこれまでも、各国の名建築を会場に発表してきた。建築好きなニコラの方針であり、その街の文化と「ルイ・ヴィトン」のアイデンティティーでもある“旅”を融合して見せることでブランドの世界観を深く伝える。今回TWAフライト・センターを通じて伝えたのは、NYという街の夢見る力とエネルギーだ。

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リーゼントヘアは映画「ウエスト・サイド物語」のロカビリー少年を、濃い目のメイクアップは70年代の米国のアイコン、グレイス・ジョーンズ(Grace Jones)をほうふつとさせ、ウィメンズだが印象はジェンダーレス。スイングトップ風の短い丈のアウターには第1ボタンまできっちり閉めた柄シャツを合わせ、“ウォール・ストリート”をイメージしたというダブルのスーツはウエストをベルトでかっちりマークする。NYの摩天楼の柄を刺しゅうで施したり、ジャカード柄で夜の街の光を再現したりととにかくエネルギッシュだ。TWAセンターの流線形とリンクする大胆なカッティングも力強さにつながる。会場は広く階段も多いが、モデルの足元はレースアップのワークブーツだからハイスピードで歩き抜ける。

バッグのバリエーションは実に豊富で、特に印象的なのは前半に登場したデジタルガジェットと融合したハンドバッグ。プロトタイプとのことで詳細は発表されていないが、デジタル、イノベーティブといった現代のNYのカルチャーとリンクするものとなりそうだ。