象徴的な針や文字盤デザインで世界を魅了する時計ブランド、ブレゲ。史上最高の時計師が作り上げ、ナポレオンやマリー・アントワネットが愛した時計は今なおブレゲのドレスウォッチに受け継がれている。今回は、世界5大時計ブランドとも称される「ブレゲ」の魅力について紹介!
天才時計師によって18世紀末に設立されたブレゲ(Breguet)。ブレゲ針やギヨシェ文字盤など、今なお残るデザインや数々の複雑機構を考案した。現在も伝統的なドレスウォッチからタフなスポーツウォッチまで多彩なコレクションを展開。「パテック・フィリップ(Patek Philippe)」「ヴァシュロン・コンスタンタン(Vacheron Constantin)」「オーデマ・ピゲ(Audemars Piguet)」「A.ランゲ・アンド・ゾーネ(A. Lange & Söhne)」とともに世界5大時計ブランドとも称される。
1775年にフランス・パリで誕生したブレゲ。創業者のアブラアン-ルイ・ブレゲは稀代の天才時計師で、トゥールビヨンやパーペチュアルカレンダーなど機械式時計の元祖となる発明を数多く残した偉人。顧客名簿にはナポレオン皇帝やマリー・アントワネット王妃などが名を連ねていた。
創業者の死後は、子のアントワーヌ=ルイ・ブレゲへと工房を継承。しかし、3代目となる孫のルイ=クレマン・ブレゲが電気通信事業で成功を収めたため、イギリスの時計師エドワード・ブラウンにブランドを売却。1970年にフランスの宝飾ブランド「ショーメ」の手に渡るが、1987年にはサウジアラビア系の投資会社インベストコープに売却された。紆余曲折の末、1999年にスウォッチグループの傘下となり業績が回復。高級時計ブランドとして再起を果たした現在は、往年のドレスウォッチのほかにも、フランス海軍航空部隊に向けて作られた「タイプⅩX」シリーズのようなタフウォッチ路線でも評価を得る。
数々の歴史的発明により、「時計の進化を2世紀早めた」とも「時計界のレオナルド・ダ・ヴィンチ」とも称されるアブラアン・ルイ・ブレゲ。彼の生涯は、時計製造の中心地、スイスのヌーシャテルで1747年に幕を開けた。11歳のときに父が他界。母親の再婚相手が時計師だったことから、15歳でフランス・ヴェルサイユの時計職人のもとに弟子入りすることとなった。瞬く間に頭角をあらわしたブレゲの才能は、やがて貴族の目に留まるほどにまでなる。1775年に身分が高くブルジョワ出身の女性マリー・ルイセ・リュイエと結婚。妻の資金力が助けとなり、ブレゲは自身の工房を設立した。
ブランドをスタートさせたブレゲが、最初に残した功績が自動巻き機構「ペルペチュエル」の開発だ。世界で最初の自動巻き時計はアブラアム・ルイ・ペルレという人物によって開発されたが、とても一般的に使用できるクオリティのものではなかった。これを実用レベルにまで発展させたのが、ブレゲの自動巻き機構ペルペチュエルである。この発明はブレゲの名を一躍世に広めることとなり、フランス国王ルイ16世や王妃マリー・アントワネットとの謁見を実現した。このとき、暗闇でも音によって時を知らせるミニッツリピーター用ゴング式リピーターを開発して収めると、その美しい音色が王妃を魅了。マリー・アントワネットは、納期や代金に上限を定めることなく、「あらゆる複雑機構を詰め込んだ、どの時計よりも美しい懐中時計」を作ることをブレゲに依頼した。この瞬間から「No.160」の制作が始まり、その懐中時計を完成させることがブレゲの生涯の目標となったのだ。
フランス革命が勃発した2年後の1791年、ブレゲは均時差表示機構「イクエーション・オブ・タイム」を考案。戦火の中においても新機構発明の手を休めることのなかったブレゲだが、貴族たちを顧客としていたブレゲは革命派に命を狙われることとなる。ルイ16世が処刑された1793年、ブレゲは旅行と偽ってパリを去り、故郷のスイスへと帰国した。同年秋にはマリー・アントワネットが処刑されることとなったが、ブレゲは王妃との約束を果たすかのごとく新機構開発に没頭。重力の影響から時計が狂うのを防ぐ「トゥールビヨン」、独特のカーブを持ち精度を安定させる「ブレゲひげゼンマイ」、「パーペチュアル(永久)カレンダー」や「レバー式シリンダー脱進機」など、実質2年間のスイス生活であらゆる機構を発明。のちに完成させる「パラシュート(衝撃吸収装置)」や「マリンクロノメーター」などを合わせると、機械式時計の原理の約7割をブレゲが開発したと言われている。
フランス革命が収束した1975年、ブレゲはパリに戻った。そして経済危機に陥っていたフランスのため、時計製造の分野で国の再建に貢献。軍隊や科学者向けの時計を手がけながら、王妃との約束であった「No.160」も改良を重ねていた。ブレゲが生涯の全てを注いだ「No.160」の開発は弟子たちにも受け継がれ、1827年に完成。ブレゲが亡くなってから4年後に完成した金色に輝く懐中時計は、のちに「マリー・アントワネット」と呼ばれるようになる。
ブレゲNo.160「マリー・アントワネット(Marie Antoinette)」は、クリスタル製文字盤を採用しており内部の複雑機構を楽しめる当時としては画期的な設計だった。1983年に一度盗まれるが、2007年に発見され現在はエルサレムのL・A・メイヤー記念イスラム美術館にて展示されている。
アブラアン・ルイ・ブレゲが世に残したのは、内部的な複雑機構だけではない。針や文字盤などのデザイン面においても、ブレゲが生み出した意匠は高級時計のスタンダードとして現代に受け継がれている。
ブレゲウォッチの象徴とも言える「ブレゲ針」。1783年に考案された、丸い穴の空いたこの針は、200年以上が経つ今なおブレゲの多くのモデルに採用されている。月を思わせるデザインは誰が見ても美しく、ブランドの垣根を越えて多くの高級時計メーカーがこのブレゲ針を取り入れたモデルを展開している。
ブレゲ針と同じく、1783年に創業者が考案されたとされる「ブレゲ数字」。細くて流線的なアラビア数字は、文字盤の中で静かな個性を発揮する。ブレゲ数字もブレゲ針と同様、一般的な単語として用いられる。
1786年に考案されたギヨシェは、ネオ・クラシック様式からインスピレーションを得たアブラアン・ルイ・ブレゲが生み出した全く新しい様式と言える。精緻でエレガント、そして芸術的なこの文字盤は、ひと目でブレゲの時計だと認識できる際立った特徴でもある。モチーフも多種多様で、代表的なものだけでも、鋲打ちのような模様の「クル・ド・パリ」や石畳のような「パヴェ・ド・パリ」、太陽光線のような「ソレイユ」、波模様の「ヴァーグ」、籠のような「ヴュー・パニエ」、市松模様の「ダミエ」、炎のような「フラメ」などさまざま。
さらに驚くことに、ブレゲはこの精巧な文字盤を全て「手作業」で作り上げている。スイス・ロリエントのブレゲマニュファクチュール内のアトリエには、ギヨシェ専用の手動施盤が27台配置されている。職人たちは3年間の研修によって、ブレゲを象徴する装飾技法を叩き込まれるのだ。ギヨシェ文字盤を採用するメーカーは他にもあるが、ハンドギヨシェにこだわり続ける”本物”はブレゲを置いて他にはない。
細かい溝を連続して施すフルート模様の装飾「コインエッジ」仕様のケースバンドもブレゲウォッチ特有のもの。このフルート模様は、ゴールド素材に「冷鍛」という冶金作業を施し、ギヨシェ文字盤と同じく職人の手作業によって刻みこまれている。
ブレゲの時計を手にすることは、特別なステータスであることは周知の事実。熱心な愛好家たちの所有欲を満たすかのように、ブレゲの製品にはひとつひとつ個別の番号が配される。そしてこの数字は単なる飾りではなく、全てブレゲによって厳格に管理されているのだ。ブレゲ創設の初期からこの伝統は続いており、数世紀にまたがってブレゲの腕時計の足跡を辿るための手がかりとしても使われる。
創業者の卓越した才能で急速に成功を収めた結果、偽物が多く出回ることとなってしまったブレゲ。そのような偽造品に対抗するため1975年頃にアブラアン・ルイ・ブレゲが始めたのが、シークレットサインだ。鋭いノミで文字盤に刻まれたサインは一見しただけでは気づかず、光にかざしてようやく判読できるもの。現在でもほとんどのモデルでシークレットサインは用いられており、ブレゲウォッチを証明するものであるとともに、愛好家が惚れ込む特徴にもなっている。
目立たない部分だが、ラグに関してもブレゲの時計にはこだわりが詰め込まれている。表面が丸みを帯びた独特な形状のラグは、ストラップを留めるのに一般的なバネ棒を用いず、両端をねじで固定するバーを採用。これにより、美しい外観を維持しながら同時に安全性を兼ね備えている。ラグひとつにしてみても、他には真似できないスタイルを確立するのがブレゲの腕時計なのだ。
アブラアン・ルイ・ブレゲが1794年に開発した衝撃吸収装置「パラシュート」と可変慣性テンプを搭載。伝統の懐中時計ムーブメントを忠実に再現した「トラディション」は、文字盤側からもシースルー仕様のケースバックからもパワーリザーブインジケータを確認可能。天才時計師が生み出した内部機構を存分に堪能できる。「トラディッション トゥールビヨン・フュゼ」には自社製ムーブメント「569」が採用されており、50時間のパワーリザーブを備えている。
創業者が手がけた18世紀末の作品にインスピレーションを得て制作された「クラシック」。「クラシック クロノメトリー 7727」のダイヤル上部には「BREGUET」の文字が掲げられ、スモールセコンドがアクセントとなっている。美しいフォルムのラウンドケースにギヨシェ装飾の文字盤、ブレゲ針にコインエッジとブランドの真髄が凝縮されている。12時位置左横のシークレットサインもポイント。
ローマ数字のメインダイアルでローカルタイムを、6時位置サブダイアルのアラビア数字でホームタイムを表示する「マリーン GMT 5857」。2時位置のダイアルでは24時間表示が備えられている。この「マリーン」シリーズはスポーツウォッチのラインにありながら、上品でドレスライクな雰囲気を醸し出している。シリコン製ひげゼンマイを備えた自動巻きムーブメント「Cal.517F」を搭載。
1950年代にフランス海軍航空部隊向けに誕生したモデルをルーツに持つ「タイプXX(トゥエンティ)」シリーズ。軍用時計らしいタフな見た目は、革ベルトを採用することによって見事なコントラストを表現している。フルート模様のコインエッジやねじ式ラグなど、ブレゲの遺伝子が確かに根付いている一本。センスの高さをアピールするなら、従来のブレゲとはひと味違ったミリタリーモデルを選択肢に入れてみてはいかがだろうか。